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岡山地方裁判所 昭和40年(行ウ)8号 判決 1973年1月31日

原告 玉野塩業組合

被告 玉野税務署長

訴訟代理人 清水利夫 外三名

主文

一  被告が原告に対し昭和三九年三月三一日付けでした

(一)  原告の昭和三六年四月一日から昭和三七年三月三一日までの清算事業年度の課税所得金額を三、〇二九万二、四七四円、法人税額を八四八万一、八七〇円とする更正処分中、課税所得金額一、九八八万八、八〇〇円、法人税額五五六万八、八六〇円を超える部分を除く部分

(二)  原告の昭和三八年六月一日残余財産の一部分配にかかる清算所得金額を一、九九八万六、九〇七円、法人税額を七五九万五、〇二〇円とする更正処分中、課税所得金額一、九八八万八、六〇〇円、法人税額三九七万七、七二〇円を超える部分を除く部分をそれぞれ取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一  当事者双方の求めた裁判ならびに主張は、別紙準備手続の結果の要約のとおりである。

二  証拠<省略>

理由

一  原告主張一の事実、同二ないし四の事実中原告の昭和三六年四月一日から昭和三七年三月三一日までの清算事業年度(以下単に「昭和三六年度事業年度」という。)の所得金額について、原告が原告主張の申告をし、被告が被告主張のとおり更正処分をし、その頃これを原告に通知し、原告が原告主張のとおり審査請求をし、原告主張の裁決があつたことは当事者間に争いがない。

二  原告は、原告が昭和三八年六月一日の残余財産の一部分配の場合の申告をしたのに対し被告が更正をしたと主張するのに対し、被告は、これを争い、昭和三八年五月三一日に原告がした申告はその昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの清算中の事業年度(以下単に「昭和三七年度事業年度」という。)の申告があつたに過ぎず、被告が本件残余財産の一部分配について行なつた処分は国税通則法二五条による決定である旨主張するので、以上について判断する。

<証拠省略>、弁論の全趣旨を総合すると、原告は、青色申告の承認を受けた清算中の法人として、昭和三七年度事業年度の所得金額および法人税額について、申告期限である昭和三八年五月三一日に被告に青色の申告書を提出したこと、被告は、原告に対する調査をしたうえ、昭和三九年三月三一日付けで右昭和三七年度事業年度の申告のほか、先になされていた昭和三六年度事業年度の申告について更正および過少申告加算税賦課決定をするとともに昭和三八年六月一日の残余財産の一部分配について、右各処分の通知書<証拠省略>と同一の所定様式を印刷した、「清算中の事業年度等の法人税について下記のとおり法人税額等の(空白)および加算税の賦課決定をします。」と掲記し、「清算中の各事業年度 清算所得の法人税額等の(空白)通知書および加算税の賦課決定通知書」との表題を付した更正または決定用共通用紙<証拠省略>に別紙「更正の理由」と題する用紙(青色申告(実地)用様式)を添付したものの表題中「清算中の各事業年度」との印刷文言を抹消して右空白箇所二箇所にそれぞれ「更正」を記入し、「申告または更正前の金額」欄を白地としたまま「更正または決定の金額(円)」欄中の「9清算所得金額」に「一九、九八六、九〇七」、「16納付すべきまたは減少(△印)すべき税額」に「七五九五〇二〇」、「18無申告加算税」に「七五九五〇〇」等記入して、これをその頃原告に対し前記昭和三六年、三七年度の各申告に対する各更正等通知書とともに送達したこと、訴外広島国税局長は、本件残余財産の一部分配に関する右被告の処分に対する審査請求に対する昭和四〇年五月二一日付裁決において、原告が昭和三八年五月三一日被告に対し当該残余財産の一部分配の申告書を提出していたと認定判断し、昭和四〇年一一月一三日付けで右裁決を取り消す裁決をしたうえ同日付けで更になした裁決においても右と同じ認定判断をしたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。<証拠省略>によつても原告が当該残余財産の一部分配について昭和三七年度事業年度の申告書と別個の申告書を提出したことは認め難く、ほかに同事実を認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、原告は昭和四〇年法律三四号による改正前の法人税法二二条の三が規定する残余財産の一部分配のつど提出すべき所定の申告書を被告に提出した事実を認めることができないところ、被告が前記通知書<証拠省略>の原告に対する送達をもつて行なつた処分は、当該通知書が更正または決定の内容欄に国税通則法二八条三項所定事項のみを記入し(同条二項参照)、かつ、無申告加算税を賦課することを記入したものであるにしても、更正通知書との表題を付し(同条一項参照)、かつ、更正をする旨記入したうえ、かつ、青色申告用理由附記の別紙まで添付したものであるから、更正通知書と解するのほかなく、したがつて、被告は無申告であるのに更正処分をしたものといわざるを得ない。そして、前記各裁決において、審査庁が当該申告があつた旨認定判断したところで右結論に影響を及ぼすものでないことはいうまでもないところである。

そうして、原告は前記認定のとおり右更正通知書の送達を受けたところ、原告主張のとおり審査請求をし、訴外広島国税局長が昭和四〇年一一月一三日付けで課税所得金額を一、九八八万八、六〇〇円、法人税額を三九七万七、七二〇円として、原処分一部取消しの裁決をしたことは、当事者間に争いがない。そして、右昭和四〇年一一月一三日付裁決は、記録上明らかな本訴提起の日である同年九月四日の後になされたもので、前記認定のとおり同年一一月一三日付けで先の同年五月二一日付裁決を取り消したうえ更になされた裁決であるところ、<証拠省略>によれば、右昭和四〇年五月二一日付裁決は所得金額を一、九八八万八、六〇〇円、法人税額を七五五万七、一四〇冊、無申告加算税を零円、過少申告加算税を三七万七、八五〇円として原処分の一部取消しと新たに過少申告加算税を賦課したものであり、右同年一一月一三日付けの右裁決取消裁決後の裁決は法人税額を三九七万七、七二〇円と減額、過少申告加算税額をなしとしたほかは右と同じとするものであつたことが明らかである。

三  そこで、本件各更正処分について理由附記に関する取消原因の有無を判断する。

前記認定のとおり原告が青色申告の承認を受けた法人であるところ、まず、昭和三六年度事業年度の所得金額等の更正処分についてみるのに、その通知書に、被告主張四(一)1記載のとおりの理由附記があることは当事者間に争いがない。

ところで、昭和四〇年法律三四号による改正前の法人税法三二条が更正に理由附記を命じている趣旨は、青色申告書提出の承認を受けた納税義務者は、一定の帳簿書類の備付け、記帳を義務づけられ(同法二五条二項参照)、これに基づいて申告をするのであるからその帳簿書類を無視して更正されることがない旨を納税義務者に保障したものであり、処分庁は、更正する以上は帳簿書類の記載以上に信憑力があるとする資料を摘示して何故に更正するのかを明らかにするものでなければならず、かつ、単に主観的に当該納税義務者が推認できると否とに関係なく、客観的に十分認識しうる程度のものであることを要すると解するのが相当である。(最高裁判所第二小法廷昭和三八年五月三一日判決民集一七巻四号六一七頁・同年一二月二七日判決民集一七巻一二号一八七頁各参照)。

ところが、前記通知書には更正の理由として単に勘定科目とその金額を記載するだけで帳簿書類との関係において帳簿書類の記載以上に信憑力があるとする資料を示して処分の具体的根拠を明らかにしていないのであるから右理由の附記は法の要求する程度に至らず違法なものというべきである。

被告は裁決により右違法は治癒したと主張するが、当該裁決書が原告に送達されたのは昭和四〇年六月九日であること弁論の全趣旨から明らかであるところ、昭和三六年度事業年度の法定申告期限(昭和三七年法律四五号による改正前の法人税法二二条の二第一項)である昭和三七年五月三一日から更正の制限期間三年(国税通則法七〇条一項)を経過しているので、もはや被告主張の裁決書の理由による違法の治癒を云々する余地もなく、同主張は採用できない。

したがつて、昭和三六年度事業年度に関する更正処分は、その余の判断をまつまでもなく、すでにこの点において取消しを免れない。

四  次に本件残余財産一部分配の更正処分についてみるのに、前記のとおり右処分が無申告であるにもかかわらずなされた更正であるにしても、更正処分である以上は前記法人税法三二条所定の理由附記を要すると解するのを相当とするところ、前示<証拠省略>によれば、更正の理由附記として、

「加算

残余財産分配額 三七・一・三一分配 二五、二三三、三〇七

三八・六・一 〃  二九、七二九、六〇〇

合計        五四、九六二、九〇七

解散当時の資本金等         三四、九七六、〇〇〇

差引清算所得            一九、九八六、九〇七」

と記載しているに過ぎないことが明らかである。

ところで右記載は、先に昭和三六年度事業年度の更正決定に説示したところと同一の理由により違法というべきであり、本件残余財産一部分配に関する更正処分も、その余の判断をするまでもなく、すでにこの点において取消しを免れない。

五  よつて、原告の本訴各請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平田孝 米沢敏雄 鈴木敏之)

準備手続の結果の要約<省略>

別表一、二<省略>

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